ブラックホールに行ってみる(2)
(「ブラックホールに行ってみる(1)」のつづきです。)
ブラックホールに行っては見たいが、重力で押しつぶされる、潮汐力で引き裂かれるという噂に、二の足を踏んでいる皆さんには、耳寄りな情報がありました。
それは、超々巨大ブラックホールでは、シュワルツシルト半径での重力加速度が地球上と同じ程度になるそうです。
シュワルツシルト半径(メートル)は、天体の質量を(キログラム)、光速度を(メートル/秒)、万有引力定数をとすると、
です。()
ただ、そこに何か(例えばブラックホールの「地表」)があるかというと、何もなく、ただ計算上の位置です。
シュワルツシルト半径の式からわかるように、天体の質量が大きくなるとシュワルツシルト半径も大きくなります。
重力加速度が質量に比例し半径の2乗に反比例するとすると、シュワルツシルト半径での重力加速度は、半径に反比例することになります。(重力加速度が地球上と同じ程度なら半径の2乗に反比例するとしても大丈夫なはず?)
つまり、巨大な(質量が大きくシュワルツシルト半径も大きい)ブラックホールでは、シュワルツシルト半径での重力加速度は小さくなるということです。
どれくらい大きいブラックホールなら、シュワルツシルト半径での重力加速度が地球上と同じ程度になるかは、あとで計算してみようと思いますが、なかなか魅力的な情報ですね。
ただし、そんな超々巨大なブラックホールに行って本当に大丈夫なのか、ちょっと心配です。
なので、そこに行く前に、超々巨大ではあるが、ブラックホールになるほどの質量ではない天体に行って、どうなるのか確かめてみたいと思います。
一番心配なの天体の密度です。
天体の体積は半径の3乗に比例しますから、超々巨大な天体では、密度(質量÷半径の3乗)が小さくなってしまいます。
密度があまり小さいと、どこからがその天体なのかわからないので、「その天体に行った」という気がしません。
そこで、地表に薄い殻があり、中が中空になっている仮想的な天体を考えます。 天体全体を見ると密度は小さいですが、地表にしっかりと立てるという天体です。
地表での重力加速度が地球上と同じとします。
その天体の地表に立ち、周りを見てみましょう。まず、地表に水平な視線で向こうを見ます。
何が見えるでしょうか。
レイトレーシングの考えを使って光を逆追跡します。目の位置から出た水平な光がどこに行きつくか考えるのです。
重力加速度は小さいですが、なにぶん超々巨大な天体ですから、光はやがて地表に落ちます。
目の位置が地表1.6メートルとすると、約0.57秒後に、約17万キロメートル先に落ちます。(keisan.casio.jpで計算しました)
ということは、地表に水平な視線で見ると、約17万キロメートル先の地表が見えるということです。
少し視線を上げてみましょう。少し先の地表が見えます。
もう少し視線を上げてみましょう。もう少し先の地表が見えます。
さらに視線を上げると地平線が見え、もっと視線を上げるとやっと空が見えます。
ということは、お皿かお椀の中(底)にいるように、周りが見えるということです。
もしこれがブラックホールのシュワルツシルト半径に立っていたらどうでしょうか。(そこに「地表」があったとして)
想像してみましょう。
ずっと上のほうを見ても「地表」が見えるはずです。
頭上には数学的な意味での点がひとつ開いているかもしれませんが、大きさのない点なので空(外)は見えません。
360° 地表に地表に囲まれている世界です。どちらに行っても地表です。
(つづく)