重力に関するイラストワースト3
相対性理論や光の曲がりなど、重力に関する解説書には、説明イラストが出てきます。
このブログでは、そのようなイラストは、言葉での説明ではどうしてもわかりづらい場合にだけ使い、最小限にとどめています。
どうしてかと言いますと、そのようなイラストは読んでいる方の誤解を招く恐れ、また分かったつもりになられてしまう恐れがあるあるからです。
以下は、わたしが選ぶ、重力に関するイラストワースト3です。
第3位:潮汐力の説明図
地球に対して月(または太陽)がある側とその反対側で海面が盛り上がっている図です。
「海面が月の引力に引かれ、また地球も引かれるので、月がある側とその反対側の海面が盛り上がる(満潮になる)」という説明がなされています。
この潮汐力のイラストは、よく見かけますが、読者に誤解を与えるだけでなく、観測結果と整合しない完全な間違いです。
例えば、この記事を書いている直近の観測データを見てみましょう。
兵庫県(神戸港)のデータです。
2020年6月7日は満月(月齢15.4)、月の南中(真上に来る)時刻は0時47分でした。
よくある潮汐力の説明図が正しいなら、月の南中時刻およびその12時間後あたりに満潮になるはずです。
実際には、満潮時刻は、6時59分と20時55分でした。(南中時刻とは6時間、π/2の位相ずれ)
観測結果に整合する図を描くと、月がある方向と90度ずれた側で、海面が盛り上がる図になります。
「潮汐力」の現象とメカニズムが、多くの方々に正しく理解されていないということでしょうか。(残念)
第2位:重力レンズの説明図
地球から見て太陽に反対側にある天体から出た光が、太陽の近辺で曲がって地球に届くという光の軌跡の図です。
この図がよくないのは「光が曲がる軌跡が横から見える」という誤解を招きかねないからです。
光は横から見えません。
概念図だからいいのじゃないのと思われるかもしれません。
では、概念図を描くなら正確に描くべきです。
重力による光の曲がりは光学レンズを通るような曲線にはなりません。
なお、日食の際に太陽に周りに天体からの光が見えるという図は、観測者の観点から描かれた、よいイラストです。
第1位:質量による空間の曲がりの説明図
伸縮する膜(ゴムの膜やトランポリン)の上に錘(ボウリングのボール)を置いて、膜が下に曲がる(伸びる)という図です。
その曲がった膜の上を物体(ビー玉)が転がっています。
「質量があると空間が曲がり、その曲がった空間に沿って物体が動く」という説明がなされています。
ちょっと待ってください。
ボウリングのボールを置いてトランポリンが曲がるのは、錘が地球の重力に引かれているからですよね。
その曲がりに沿ってビー玉が転がるのも、ビー玉も地球の重力に引かれているからですよね。
このイラストでは「質量によって空間が曲がるのは地球の重力の影響だ」という説明になります。
質量があると空間が曲るということを説明するなら、地球の重力を想起することなく理解できる図を描いてくださいね。(よろしくお願いします)