柵(しがらみ)なき重力論

自由に重力論を展開します。

深宇宙探査機に追いつけない光

昨日の記事で、等加速度 a で宇宙の果てに向かう深宇宙探査機の位置 x(t) は双曲線
 (x + (1 / a))^2 − t^2 = (1 / a)^2 (式1)
であらわされると書きました。

双曲線のグラフは、時刻 t = 0 に、位置 x = 0(=地球)を出発した深宇宙探査機の軌道を示します。(地球から見た軌道です)


さて、双曲線には「漸近線」があります。
式1であらわされる双曲線の漸近線は、
 x + (1 / a) = t (式2)
です。

この漸近線は、座標 (x = (1 / a), t = 0) を通る、傾き1の直線です。
この漸近線のグラフは、時刻 t = 0 に、位置 x = -1 / a から放たれた光の軌道を示します。

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深宇宙探査機の軌道と光の軌道とは限りなく近づきますが、接することも、交わるともありません。


さて、「アキレスと亀」という話があります。

 アキレスと亀が競走をすることとなった。
 アキレスのほうが速いのは明らかなので
  亀よりいくらか後ろからスタートした。
 アキレスが亀のスタート地点まで進むと、
  その間、亀は少し先に行っている。
 アキレスがその亀がいた位置まで進むと、
  亀も少し先に行っている。
 アキレスがまたその亀がいた位置まで進むと、
  亀もまた少し先に行っている。
 この繰り返しで、アキレスは亀に追いつけない。

式1の深宇宙探査機の軌道と式2の光の軌道も、この「アキレス(=光)と亀(=深宇宙探査機)」の話のとおり。

時刻 t = 0 に、位置 x = -1 / a から放たれた光は、時刻 t = 0 に、位置 x = 0(=地球)、速度v(0) = 0、加速度a で出発した深宇宙探査機には追いつけません。

 

具体的な数値でみましょう。
光速度が1となる単位系での加速度 a と、われわれが日常使う単位系での加速度 a' とは、
 a = a′ / c^2
の関係にあります。

深宇宙探査機の加速度が地上の重力加速度(約1×10メートル/秒^2)程度とします。
光速度は約3×10^8メートル/秒 です。
 1 / a = c^2 / a' = (3×10^8)^2 / (1×10) = 9×10^{15}

1光年が約9.5×10^{15}メートルですから、地球の1光年弱後方にある星から深宇宙探査機の出発と同時に放たれた光は深宇宙探査機には追いつけないということです。

また、この光は、時刻 t = 1 / a に、位置 x = 0(=地球)に到着します。
なので、深宇宙探査機の出発の1年弱あとに地球から放った光も深宇宙探査機に追いつけません。

 

ということは…、出発の1年後には地球からの指令が深宇宙探査機に届かなくなるのです。
深宇宙探査機からの信号は地球に届き続けるのですが。
本当に見送るだけになってしまいました。