柵(しがらみ)なき重力論

自由に重力論を展開します。

深宇宙探査機は耐用年数でどこまで行ける

深宇宙探査機が地球を出発したのはいつだったでしょうか。
深宇宙探査機の設計上の耐用年数は10年。
地球での時間はとっくにそれを過ぎています。深宇宙探査機はいつまで動作できるのでしょうか。
深宇宙探査機での経過時間 \tau は、地球での経過時間 t よりかなり伸びているはずです。
計算してみましょう。

 

深宇宙探査機での瞬間的な時間 d\tau と、地球での時間 dt とは、地球から見たその時点 t での深宇宙探査機の速度を v(t) とすると、
 d\tau = \sqrt{1 - v(t)^2}×dt (式1)
です。時間が伸びているからです。

速度 v(t) は、以前に計算しました。
深宇宙探査機自体の加速度を a とすると、

 \displaystyle v(t) = \frac{a×t}{\sqrt{1 + (a×t)^2}} (式2)

でした。

式1に式2を代入すると、

 \displaystyle d\tau = \sqrt{1 - \left(\frac{a×t}{\sqrt{1 + (a×t)^2}}\right)^2}×dt

 \displaystyle = \sqrt{1 - \frac{(a×t)^2}{1 + (a×t)^2}}×dt

 \displaystyle = \sqrt{\frac{1 + (a×t)^2 - (a×t)^2}{1 + (a×t)^2}}×dt

 \displaystyle = \sqrt{\frac{1}{1 + (a×t)^2}}×dt

 \displaystyle = \frac{1}{\sqrt{1 + (a×t)^2}}×dt

となります。

この両辺を積分すると、地球を出発してからの経過時間になります。

 \displaystyle \int d\tau = \int \frac{1}{\sqrt{1 + (a×t)^2}}dt (式3)

双曲線関数を使った置換積分をするのですが、

 \displaystyle \frac{d}{dx}\sinh^{-1}x = \frac{1}{\sqrt{1 + x^2}} (公式1)

という公式を使います。

x = a×tt = (1/a)×x と置換します。dtは、

 \displaystyle dt = \frac{dt}{dx}dx = (1/a)dx

となります。

式3は、

 \displaystyle \int d\tau = \int \frac{1}{\sqrt{1 + x^2}}(1/a)dx

 \displaystyle \int a d\tau = \int \frac{1}{\sqrt{1 + x^2}}dx (式4)

となります。

式4の左辺の積分結果は、
 a×\tau + C (Cは積分定数
です。

地球での経過時間がゼロのときは深宇宙探査機での経過時間もゼロなので、積分定数はゼロとします。

式4の右辺は公式1を使って、
 \sinh^{-1}x
です。置換をもとに戻して、
 \sinh^{-1}(a×t)
です。

式4の左辺=右辺で
 a×\tau = \sinh^{-1}(a×t)
です。

逆関数 \sinh^{-1}\sinh に戻せば、
 a×t = \sinh(a×\tau) (式5)
となります。
(注意! 式5は、地球から見て深宇宙探査機で \tau 時間経っていたとき地球では t 時間経っていたことになる、という式です。深宇宙探査機で \tau 時間経っていたとき深宇宙探査機から見て地球では t 時間経っていたことになる、という式ではありません

 

具体的な数値を入れて、計算してみましょう。

光速度が1となる単位系での加速度 a、時間 t と、われわれが日常使う単位系での加速度 a′t’ とは、光速度cとすると、
 a=a'/c^21/a=c^2/a’
 t = c×t’\tau = c×\tau’
の関係にあります。

これを式5に代入して、
 (a'/c^2)×(c×t’) = \sinh( (a’/c^2)×(c×\tau’))
 (a'/c)×t’ = \sinh( (a’/c)×\tau’)
 t’ = (c/a’)×\sinh( (a’/c)×\tau’)
です。
光速度 c は、約 3×10^8メートル/秒です。
1年は、3.15×10^7 秒です。
深宇宙探査機の加速度 a’ を地上の重力加速度(約10メートル/秒^2)程度とします。
深宇宙探査機での経過時間を耐用年数である10年(約3×10^8秒)とすると、それに対応する地球時間は
 t’ = (c/a’)×\sinh( (a’/c)×\tau)
 = ( (3×10^8)/10)×\sinh(10/(3×10^8)×(3×10^8))
 = (3×10^7)×\sinh(10)
 = (3×10^7)×(1×10^4)
 = 3×10^{11}
です。(\sinh の計算には「双曲線関数 - 高精度計算サイト - Keisan - CASIO」を使いました)

年にすると、約1万年です! 人類はまだ生存しているでしょうか。
地球では1万年経ったのに、深宇宙探査機では10年しか経っていないのです。

 

そのとき、深宇宙探査機はどこまで行っているのでしょう。

地球から見た深宇宙探査機の位置は、
 \displaystyle x(t) = (1 / a)×\sqrt{1 + (a×t)^2} - (1 / a)

であらわされるのでした。

この式に数値を代入して計算しましょうか…。
もっと簡単に考えます。
それだけ時間が経ているのなら、深宇宙探査機の軌道は漸近線
 x + (1 / a) = t
に近づいてるはずです。
また、 (1 / a) = 約1光年は、無視できるくらい小さいです。

ので、x = t
つまり、深宇宙探査機は1万光年の彼方にいます。

われわれの銀河系の大きさの10分の1程度の距離です。

f:id:Dr9000:20200420095927j:plain